頑張れ「プロジェクトＸ」！

　NHKの「プロジェクトＸ」は、毎回素晴らしい「感動のドキュメント」を届けてくれる、最近では珍しい（と思う）番組です。個人の私生活の中での「お涙頂戴」系人情物語や、芸能人の企画ものは、民放にいくらでもありますが、「プロジェクトＸ」は、しばしば「つまらない大人」の代名詞みたいに云われる（！）普通のサラリーマンや公務員のおじさん達が、与えられた職務を果たすという、ある意味「当たり前」の姿に素材を求めている点が貴重です。こういう番組を見ていると、どんな分野でも、プロと目される人間の「仕事」は、それ自体感動的なのだ、ということがよくわかります。

　そうだ、ニッポンのオジサン達は凄かった（凄い）んだ！

　社会のタガが緩みまくっている昨今、それもこれも近代日本の歩んできた道がみんな間違っていたからだ、みんな大人が悪いんだ、みたいな訳知り顔の評論家*ばかりが跋扈する中で、「そんなことはない！」といってくれる、そして「モノ作りのロマン」「仕事のロマン」を語ってくれる、こういう番組がないと、かつてのオジサン達は立つ瀬がありません。これだけ豊かな物質文明の恩恵にどっぷりつかりながら、少しばかり思うようにならないことがあるからといって、それを全部上の世代のせいにして文句ばかり垂れている若者達に、彼らの父親達、祖父達をちゃんと尊敬することを教えてやらないと、この国は本当に滅んでしまいます。上の世代の偉大さを認め、乗り越えるべき「壁」として意識しない者が、成長できるはずがないのですから・・・おいおい、こんなところでぶつなって。

＊タガが緩んだのはお前らのせいだぞ！

　そういう意味で、この番組は、現役のサラリーマンのオジサン達*は勿論、若い世代に対してもイチ押しであります。現代版「はたらくおじさん」として、全国の中学校や高校に、ビデオライブラリにして配ってほしいぞ（笑）。

＊ サラリーマンの「元気の素」系としては、本宮ひろ志原作のドラマ「サラリーマン金太郎」が、結構評判になったようですが、個人的には、本宮ひろ志の漫画って、好きではないです。肝心の場面になると主人公が突然エキセントリックな演説をぶち、聴衆が妙に素直に感動して、わっはっはと大笑いして大団円、という、実は物凄く安っぽい展開が多いので。

　因みに、近代科学文明の害悪を説く人たちや、21世紀は心の時代だとかいう人たちや、ＩＴだ脱製造業だといって在来の産業／社会形態からの脱却（＝アメリカ化？）を訴える人たちの目には、こういう番組はどう映るんでしょうね。やっぱり噴飯モノの反動的アナクロニズムなんでしょうか？

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　先日の「国境を越えた救出劇」を見たというどこかの主婦が、中日新聞に「素晴らしかった。今だったら、こんなことができるでしょうか。」てな投書をしていました。どうあっても、今の日本を「ろくでもない社会」だと云いたいらしい。これも困ったもんです。

　「コンスタンチン君救出作戦」は、ほんの10年前のことです。日本が、あれからどれだけ変わったというのでしょうか。確かにつまらない事件が沢山起こるようになりました。人間は随分腐ったかもしれない。しかし、この国の「つくり」は、良くも悪くも、世界が変わったほどには変わっていない。10年前にできたことが、今、できないはずはありません。「今、こんなことができるでしょうか」などと他人事みたいに嘆いていてはいけない。できなきゃいけない。次の「プロジェクトＸ」の主役になれるかどうか*は、その時そこにいる、自分次第なのだ。番組から学ぶべきは、そういう事なのではないでしょうか。

＊ だれでもそのチャンスはあるのだ、という意味で、番組には、「世紀の巨大プロジェクト」とか「世界初の」とか「絶体絶命の危機に立ち向かう」とかの、特殊な事例だけでなく、システムキッチンのような身近な題材も忘れないで欲しいと思います。

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　番組に、ひとつだけ苦言を呈すると、司会／進行役のアナウンサー２名が、スタジオのゲストに対して投げる質問が、総じて「つまらない」こと。不勉強なのか、それとも興味がないのか。あなたの口からこういうことを聞きたい！という「攻め」の姿勢がなく、VTR中で語られた話を反芻して「そんなことがあったんですかぁ」（質問にすらなっていない！）だの「どうでした、あの時は・・・？」だのといって時間をつぶすだけ。限られた放送時間の中で、VTRに収まりきらなかった物語の本質に一歩でも深く切り込もう、目の前にいる歴史の証人からもう一言を引き出そう、そういうジャーナリストとしての気迫が、微塵も感じられません。呆れたゲストの側（松本零士氏等）が、「結局こういうことだと思うんですよ」と話をまとめて*くれてしまっているのが、なんとも情けない。

　多分、二人とも、取材には参加していないでしょう。もしかして、放送分のVTR以外、事前に見ていないんじゃないか？クボジュンを出しておけば**オジサンが喜ぶと思ったら大間違いだぞ。

＊ 　これはこれで、そんな簡単にまとめてしまっていいのか？と突っ込みたくなることもあるのですが。

＊＊ NHKのＨＰで、番組の宣伝ポスターを見ることができるのですが、なんとクボジュンの大写し。絶対、何か勘違いしているなぁ（永井美奈子なら許すけど・・・って、こらこら、そういう問題か？）。

(2000/08/11)

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